キャンセルの電話が鳴った。
「体調が悪くて、今日はキャンセルで…」
「かしこまりました。どうされましたか?」
「え、あ〜、うーん…ダルくて」
「そうですか。ゆっくりなさってください。
次回は水曜日2時にお伺いしますね」
電話を切る。
でも私の頭の中では、全然別の会話が同時進行していた。
(最近、躁状態が続いて絶好調だった。そろそろ揺り戻しが来るかもと思ってた。電話をかけること自体、今日は相当しんどかったはずだ。「ダルくて」の一言を絞り出すのに、どれだけのエネルギーを使ったか。キャンセルできただけで、今日は合格。)
そこに社長が近づいてきた。
「毎回だとな…もう少し上手く持っていけないかな」
私は笑顔でうなずきながら、心の中で答えていた。
(S.Tさん、今日電話できただけで100点満点なんですよ!)
精神科の訪問看護をしていると、言葉の裏を読むことが仕事になる。
「ダルくて」は、ただの疲れじゃない。
「行けない」という精一杯のSOSだ。
それを「また休んだ」と見るか、
「今日も連絡できた」と見るか。
その視点の違いが、
ケアの質を決めると私は思っている。
精神疾患を抱える方にとって、
他人を家に入れる、
あるいは他人と会話することは、
私たちが想像する以上に
莫大なエネルギーを消耗するイベントです。
心理的には——
「何を話せばいいのか」
「失礼なことを言わないか」
「看護師さんにどう思われるか」
そういった不安が、
訪問時間が近づくにつれて膨れ上がります。
そしてその不安に耐えきれなくなったとき、
「キャンセルして楽になりたい」という
回避行動に繋がります。
キャンセルは「怠け」じゃない。
脳が自分を守ろうとしている、
精一杯のサインなんです。
※このブログは、「訪問看護師(Psychiatric Visiting Nurse)」として 働く私の、現場からのリアルな記録です。 個人情報保護のため、詳細は変更しています。